今回は磯崎哲也さんにインタビューしてきました。磯崎氏のインタビューは数回に分けて更新していきます。
――磯崎哲也とは?早稲田大学政治経済学部経済学科卒業(1984年)。長銀総合研究所で、経営戦略・新規事業・システムなどの経営コンサルタント、インターネット産業のアナリストとして勤務。その後、1998年カブドットコム証券の社外取締役、ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師などを歴任。現在、磯崎哲也事務所代表。公認会計士、システム監査技術者、公認金融監査人。。Twitterアカウントは@isologue。著書『起業のファイナンス』。ブログはisologue。
なりたい理想像があったわけではない
記念すべきブログ更新第一回目は、ベストセラーになった「起業のファイナンス」の著者、磯崎哲也氏。
「実は私、人生を振り返ってみても『将来こうなりたい』と理想像をもってそれを目指して来たわけじゃないんです。インターネット一つ取ってみても、今、こんな世界になってるなんて、10年20年前に正確に想像できていた人はほとんどいないと思うんです。自分の今の状態は結構気に入ってるんですが(笑)、この状態を学生時代に目指していたかというと全く違いますね。そんなことは不可能だと思います」
理想がないのに、今では立派な肩書を持っている。そこに至るまでの原動力はなんだったのだろうか。
「時代が変化していくなかで、常に『一番面白そうで、自分や世の中の役にも立つことは何だろう?』って考えてきたということは言えます」
今の自分にとって一番自分の力が発揮できることを考えて行動に移した結果が今につながっていると氏はいう。
「角を曲がってみないと見えてこない景色があります。角を曲がる手前で、『この先にはどんな世界が広がっているんだろう……?』と考えても、選択肢が多くてわからないですよね。ベンチャーや人生もそうなんです。曲がってみないと見えてこないものが多い」
ワクワクドキドキハラハラがベンチャーのいいところ!
角を曲がらないと景色はわからないが、そこがベンチャーの魅力なのだとか。
「僕が起業で、最も楽しいと思うことは『スピード感』」
例えば、大企業がシステムを作る場合、たいてい業者に依頼する。そして、その決定には時間がかかるのが常。どこの業者にしようかを話し合い、見積書をもらいそれを比べて契約を交わす。その一連の作業にへたをすると半年くらいかかるのだ。
「それに対してベンチャーでは『コレ、面白そうじゃん?』と思ったら徹夜して1週間でプロトタイプが出来上がることもあります。そのスピード感で物事が進行していきます」
もちろん、常にそう簡単に上手くいくわけではない。まさかの想像していない事態が起きることもしばしば。
「胃が痛くなる思いもありますが、ワクワクドキドキハラハラとした非常にエキサイティングな仕事。その感じがとても楽しいですね」
ベンチャーならではのスピード感が磯崎氏にとってはたまらない快感なようだ。
会計士を取ったのは“たまたま”
そもそも磯崎氏はどんな学生だったのだろうか。
「高校時代私は当時、物理学者になりたいと思っていたんです。相対性理論や量子力学など、世界がどういうしくみで動いているのかに非常に興味があった。そこで、理系の大学を受けたんですが全て落ちてしまいまして……」
浪人するお金もなくて、唯一受かっていた早稲田大学の政治経済学部に通うことになったのだとか。
「ですから理系的なことはなんとなくイメージがあったのですが、経済や社会がどう動いているのかは全くわからなかった。だから、「これは天の思し召しかも」(笑)と思って、大学入学後は経済学の勉強をハードに2年ほどやりました。ただ、当時は会計や法律については全く興味がなかった(笑)。会社の仕組みや会社が何をやっているのかも、おそらく今の学生さんよりもイメージができていなかったと思います」
大学時代の後半はプログラマやガソリンスタンド店員などのバイトに精を出して過ごしたという。
「大学時代は起業という選択肢は全く思いつきもしませんでしたね。自分で会社が作れる可能性があるなんてことは、つい10年くらいまで考えたこともなかったです」
就職を目指すあたりは、今の学生とそれほど大差なかったのかも。
たまたま”就職した長銀総合研究所
「就職先として選んだのは長銀総合研究所。1期生でした」
日本長期信用銀行(現在の新生銀行)系のシンクタンク及びコンサルティングファームだった。
「当時は大学4年の春から夏にかけて就活をするのが普通。しかし、これまたお恥ずかしい話なのですが、私は夏休み中バイトをしていたら既に採用活動が終わった企業ばかりだったんです」
就職活動で路頭に迷う磯崎氏。しかし、そこに天の救いがあった。
「長銀総研はちょうど設立し採用を開始したばかり。『これはおもしろそうだ!』と思い、受けに行って入社したんです。だから、たまたまなんですよね」
そんな磯崎氏は、長銀総研時代に会計士を目指そうと思ったのだとか。それはなぜなのか。
「実は、就職してすぐに付いたおっかない上司を見返すために会計士の勉強を始めたんです (笑)。上司は公認会計士で、当時まだ珍しかったと思いますがアメリカでMBAも取った人。仕事も非常にできる人でした。書類を書いて持っていっても、ビリビリに破かれた。私に会計の基礎知識が全く無いのを見て、その上司に『簿記2級でいいから取れ』と言われたんです。でも、簿記じゃ見かえせないなと思いまして会計士を受けることにしたんです」
当時は仕事が終わったら、予備校に通う生活を繰り返した。上司の理解があったなど、環境に恵まれていたので、1年ちょっとで合格することができたという。
「最近は会計士の就職難が増えているそうですね。なので、『監査法人や会計事務所以外に勤める会計士になるための方法』についての出版や講演をよく依頼されます。でも、監査法人以外の就職を目指してたというより、お話ししてきたとおり、私の場合はたまたまたどり着いた仕事なんですよね。他に監査法人以外で働いてる会計士の人の話を聞いても『こうすれば監査法人以外で働く会計士になれる!』なんて法則は見えて来ない。『たまたま』の積み重ねなんです。ですから、若手会計士等向けの講演の中でエピソードとして入れるといったことはあっても、本にするほどまとまった話を書ける自身は全く無いです(笑)」
起業する学生
氏は学生が起業することについてどう思っているのだろうか。
「一般論としては、学生企業はリスクが高いとしか言えないと思います。学生はまだまだ、知識も経験も少ないことが多いですから。だから誰彼かまわず『学生よ、起業せよ!』なんてことは、私としては怖くてとても言えない」
氏の話からするに、学生はむやみに起業しない方がいいのだろうか。
「とはいえ、mixi(笠原氏)やリクルート(江副氏)のように学生で起業して成功してる方もたくさんいるわけです。マイクロソフトだってグーグルだってヤフーだって、学生が作った会社じゃないですか。だから『学生が起業したら必ず失敗する』なんて法則も全く説得力が無いわけです。起業する人はたいてい『俺ならできるんじゃないか』という根拠の無い自信がある。その根拠の無い自信を持つことは非常に大切だと思います」
だが、根拠のない自信があったとしても、すべての人が起業に成功するわけではないのが世の常。
「だから、学生すべてにおすすめするわけではありません。ですが、起業は非常にエキサイティングで楽しいですよ。少なくとも私が学生時代の頃は、私も周囲の学生も、起業なんて選択肢は考えつきもしなかった。社会人になって30年くらいは他人から命令されて働くのが当然だと思ってました。しかし、今は当時と比べ物にならないくらいチャンスがあります。他人に言われたことをやるのではなく、自分が最も熱くなれることを最初からできるチャンスがあるわけです。ですから、学生も起業という選択肢も考えてみてもいいんじゃないでしょうか。検討するだけしてみて『オレは向かないな』と思えば、それはそれでいいと思います」
成功には運も必要
しかし、磯崎氏は経営の難しさについても言及する。
「経営は事前に勉強し尽くせるものではありません。実際にやってみないとわからないことが多いです。特にベンチャー企業というのは他の人もやってることをやっていたのでは、うまくいく可能性が減ってしまうわけですから、自ずと誰もやったことがないことをやるはめになります」
例えば、テクノロジーの障害が起こったらどうするのかや、仲間にしようと目を付けている人を口説く場合など、難しいことは山積しているのだとか。
「もちろん、やってみた結果上手く行くこともあると思います。でも、僕は『こうすれば必ず起業は成功する』といった話はインチキくさいと思います。確かに、成功した人の話を聞くのは非常に参考になると思いますよ。しかし、それはその人が遭遇した場面でその人がうまく対応したにすぎない。結局、言ってしまえば『たまたま』なんですよ」
同じやり方だったとしても、時代が変わるだけで上手く行かなかった可能性も十分にある。
「しかし、運を引き込む力、環境の変化に合わせられる力のある人は成功すると思いますよ。NTVPの村口和孝さんは、「起業ビジネスが失敗する確率は100%」とおっしゃってます」
この言葉の意味は「どんなベンチャー企業でも、当初想定した計画の通りに行かないことが100%起こる」ということ。
「だから、重要なのは失敗しないことではなく、失敗したときにそれにどう対応するかなんです」
資本政策で失敗しないようにする
磯崎氏は失敗してもどうリカバリするのが大事というが、そもそも失敗しないためのポイントもあるのだとか。
「起業する前に経営に必要な全てを勉強するというのは無理があります。アップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツ氏が、起業する前に簿記2級レベルの勉強をしたとか、経営の本を読みあさったといったことはあまり聞かない。経営の勉強をすればするほど事業成功の確率が高まるというのも、あまり説得力がないと思います。しかし、例えば『出資者との関係』などの絶対に間違えちゃいけないツボは押さえるべき。そこをアドバイスしてくれる人を見つけるといいと思います」
そこで参考になる書籍が磯崎氏の「起業のファイナンス」
「学生さんにもこの『起業のファイナンス』という本はオススメだと思います。自分で言うと、うさんくさいですが(笑)。この本はファイナンスのノウハウについて説明していますが、『経営』というものを『おカネの側面』から見る参考にもなると思います」
ファイナンスとは資金調達の意。起業する際にそのお金をどうやって集めるかを書いた本なのだ。
「『これを読めば絶対にビジネスが成功する』という話ではありません。でも、資金を集める段階で取り返しのつかない失敗をする確率を下げたり、より有利な資金調達をできる可能性を高める効果はあると思いますね」
ベンチャーで最も失敗している例の一つが「資本政策」というケースなのだとか。資本政策とは、資金調達や株式公開などのために、必要な金額が調達できるかなど考慮する計画のことをいう。例えば、はじめの資本金が50万だとすると、10%の持ち分を他の株主から取得しようとすると5万で済む。しかし、これが5億円の企業価値へと成長した場合に10%の持ち分を取得しようとすると5000万の資金が必要になる。一般的に創業者はお金がないことが多いので、持ち分は一度薄まったら二度と高まることはない。文字通り「取り返しがつかない」ことになる。
「初期に一番間違えやすく、一番アドバイスが必要なのに、今までそういった本が出ていなかった。なので、この本を書いたんです」実際に、『起業のファイナンス』を読んで、調達に成功しましたという声も届けられているそうだ。
人の心を動かすことが大切
資金調達といっても、なかなか一般人には想像しにくいが……。
「資金を集めるときには、5年後の姿を描いて『将来こんなに儲かる会社になりますよ』とプレゼンすることも重要です。しかし、計画を立てることはもちろん重要ではあるのですが、必ずしも「儲かる」だけでは人間は動かないんです」
投資家は儲かることを大前提。そこには、儲かる以外の要素が必要なのだ。
「そのサービスによって『世の中の生活がこの製品によってこう変わるんです』といったワクワク感が必要なんですよ」
例えば、Googleの場合は「世界中のネット上にある情報を集めて、検索したら一瞬にして、欲しい情報を探し出してくれる……」というコンセプトがある。
「その事業によって『世界中の人がこれを使い始めます』というビジョンを見せれば、投資家の心をつかむことができます。ですから、お金を出してもらうには心を動かすことが重要なんです」
必ずしも儲かるだけではなく、人々の役に立つことが起業でできるのが一番よいのだ。
(文 両角@ryokado)
続きはこちら→起業について×磯崎氏(2)
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