こちらです。
磯崎哲也さんへのインタビュー第二回目です。前回の磯崎氏のインタビューは――磯崎哲也とは?早稲田大学政治経済学部経済学科卒業(1984年)。長銀総合研究所で、経営戦略・新規事業・システムなどの経営コンサルタント、インターネット産業のアナリストとして勤務。その後、1998年カブドットコム証券の社外取締役、ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師などを歴任。現在、磯崎哲也事務所代表。公認会計士、システム監査技術者、公認金融監査人。。Twitterアカウントは@isologue。著書『起業のファイナンス』。ブログはisologue。
イケてる学生は増えている!
「イケてる学生とそうでない学生の格差が大きくなりつつあるのかも知れないですね」
磯崎氏は中央大学法科大学院の講師を務めていた。比較的近い距離から学生を見てきた立場ならではの印象をこう述べる。
「息子2人が中学生なので、その年代にも興味が行くのですが、大阪の西田君(@GkEc )は中学生なのに非常に上手に大人とのやりとりをして、経済学を学んでいますね」
彼は最近では大阪大学の大竹文雄教授(@fohtake )や政策研究大学院大学の安田洋祐助教授(@yagena )などと経済セミナーという雑誌で対談をして表紙を飾った。大竹教授は今年のダイヤモンドの「今年の経済書」ランキングで、著書『競争と公平感―市場経済の本当のメリット(中公新書)」がナンバーワンとなった。
「そして、同じく関西のTehu君(@tehutehuapple )という中学生も『健康計算機 』というアプリを自分で作っています」
最近では小さな頃からプログラミングを勉強する人も珍しくない。
「誰でも最先端の社会人と接することができる時代ですから、子供の頃からそうしている人とそうでない人がいるわけです。となると、大学を卒業して就職してから初めてそうした仕事の勉強をしても追いつかないことも増えて来るでしょう」
中高生でもビジネスができる時代に
しかし、なぜまだ若い学生がそんなに活躍できるようになっているのだろうか。
「昔と比べて『イケてる学生』は増えていると思います。それはやはり昔と比べてインターネット等が発達し、得ようと思えばいくらでも情報もチャンスも手に入るようになっているから。一方、世間では昔と比べて学生の質が下がったという話をよく聞く」
20代前後の若者は「ゆとり世代」と揶揄されるくらい。
「しかし、僕の大学時代を振り返ってみると僕の方が出来が悪かったです(笑)。今の学生は西田君やtehu君のように一つ方向性が決まれば凄いことになる、というケースが生まれて来ている」
多くの大学生は適当にノートを借りながら試験を受け、単位を取る。その一方で、自分でなにか面白いことをやってる人とやっていない人とで大きな差が開くという。
「起業が早ければ早いほど成功の確率が高まるとは限りませんが、ミクシィ社長の笠原さんは東大在学中に起業し、ネットエイジやサイバーエージェントから出資も受けました。98年に私がカブドットコムの創業に関わった時は、30代の出資してくれる人がいるなんて全くイメージが湧かなかった」
ベンチャーキャピタルとは投資してくれる会社のことだ。当時のベンチャーキャピタルで多かったのは上場する直前に少しお金を出資するパターン。
「昔は出来たての会社に出資するベンチャーキャピタルなんて想像がつかなかった。しかし、今はそれが非常にありふれた現象になっています。これでどうして環境が悪いと言う人がいるのか不思議なくらいです(笑)。もちろん起業にもいろいろあります。自分の家族が食っていくための起業、例えば夫婦で小料理屋をやろうとか、クリーニング店を開店しようという人が起業しやすくなったかというと、あまり変わってないかもしれません。しかし、『将来、百億円単位の売上があるような企業を作ろう』『世界に進出しよう』『上場しよう』『世の中を変えるぞ』といったデカいことを夢見る人を応援する仕組みは、この10年間で確実に良くなっていると思います」
”環境”のせいにするな!
先日、ある若者がtwitter上で磯崎氏に議論を持ちかけた。彼は「日本の起業環境は悪い」と主張していた。
「しかし、起業するにあたっての制度的障害がそんなにあるとは思えないんです。そもそも、日本の起業が少ないのは、『自分が起業なんてできるわけがない』と思い込んでいる人が多いから。また、起業に関する基本的な知識も乏しい。『この事業は国内でこのくらいの市場規模になります』『当社はこれくらいのシェアを取って、3年後には利益がこのくらい出ます』といった事業の説明をきちっとできる人も少ない。環境が悪いというよりも、起業する人自身がイケてないことが多いわけです」
しかし、イケてる人になること自体が難しくそのような人材は少なそうな気もする。実際に起業する人はどの程度いるのだろうか。
「『僕は普通の人間で、何の取り柄もないけど起業したいんです』と言われても、本当に何の取り柄もなければ、そりゃ無理でしょうとしか言えません。全国に法人は300万社ほどしかなく、それもほとんどは上場企業をはじめとする昔からの会社やその子会社など。自分で起業して社長をやっている会社というのは、そのうちのごく一部だと思います。つまり、起業して経営者になるのは、日本の人口の1億数千万人のうち、ほんの一握りの『選ばれた人』。この比率が倍増して何万人も増えればいいとは思いますが、それでも人口の1%が起業して社長になるわけではないと思います」
この「選ばれた人」というのは、学校の成績がいいとか家柄がいいといったこととは直接関係はない。
「むしろ昔は、起業する人というのは、大企業には勤められない、良く言えば大企業の枠にはまらないような人が多かった。しかし、ここ10年は、大企業の中にいてもキラリと光るような非常に優秀な人が続々とベンチャー企業の世界に流れ込んで来ています。今、大企業も法律事務所も監査法人も、人があふれかえっています。つまり、ベンチャー企業でも優秀な人材が採用できる可能性が増えるので、イケてるベンチャー企業にとっての環境は今後ますます良くなるはずです。ですから逆に、『普通の人』にとっての起業環境は、残念ながら今後どんどん悪くなるんじゃないんでしょうか。起業するなら今のうちかも知れませんね(笑)」
”環境”に適応する努力を
起業環境は整っているという。そして、氏はこう続ける。
「イケてる人が周りに少ないというのを『環境』というなら、イケてる人にたどりつけばいいだけ。イケてる人はイケてる人の所に集うんです。また、『日本は出る杭は打たれる』風土だから起業しにくい、と言う人もいます。あたかも、若者を潰しにかかる陰謀組織のようなものがあると思う人が多いんです。エヴァンゲリオンでいうゼーレ のようなね(笑)」
しかし、これは思い込みだと磯崎氏はいう。「実はそれは逆で、日本の経済界などのトップの人たちは『イケてる若者が出てこないか』と切望しているわけですよ」10年前以前はたしかに「環境が悪かった」と言えたそうだ。いろんな制度や実例、そして経験もなかった。しかし、この10年間で大きく変わった。
「『バブル崩壊以降の日本はIPO件数も激減した。だからもう日本の上場は狭き門になりつつある』とも言われたりしますが、上場基準は変わっていないし他の国と比較しても緩いくらい」
IPOとは、新規株式公開のこと。
「常に世の中は変わっていく。環境が変化したらそれに合わせて変化させていくのが経営でありベンチャー。環境が最高の状態になって静止するのを待っていたら、いつまで経っても起業はできない。むしろ、環境が変化している時こそ、既存の企業が追いついていけない間隙を突いて起業が可能になるわけです」
日米の投資環境の違い
では、ベンチャーへの投資が盛んなアメリカの環境と比べるとどうだろう。
「シリコンバレーやボストンなどでは、有名なベンチャーキャピタルや投資家に投資してもらうと、周囲から『あそこはイケてるのでは』という期待が働きます。たとえば、僕が出資するよりビル・ゲイツ氏から出資された会社の方が『ビル・ゲイツの目にとまったのか!』と期待されますよね?」
ベンチャーキャピタルの本来の役割は出資による信用力の形成。これに対して、日本ではどうだろうか。
「日本のベンチャーキャピタルはとりあえず広く浅く投資するところが多い。本来のベンチャーキャピタルはイケてる会社の目利きをし、1社当たりに大きく投資します。また、経営の幹部やパートナーを紹介してくれる機能もある。日本のベンチャーキャピタルにも、そういった機能を果たすところも増え始めていますが、もっと頑張ってほしいところですね」
「成功する」ベンチャーは”環境”に適応氏は「イケてる」会社を著書の中でこう定義する。急成長できそうな分野に食い込んでいき、優秀でやる気があって成功の可能性が高そうな会社。これをファイナンス的な意味で「イケてる」と呼んでいるのだ。
「もちろん、イケてるベンチャーであっても必ず成功するとは限りません。必要なのは、変化への対応能力だと思います。誰もやったことないような画期的な事業が、当初の計画通りに進むわけはない。ベンチャー企業の経営者の資質としては、突然発生した問題に、どう対処できるかが、非常に重要なわけです」
環境は常に変化しているため”たまたま”思いもよらぬ問題が生じた場合に対処できる力が求められるようだ。最近は、どういったベンチャービジネスの領域が熱いのだろうか?
「私が社外監査役をやっているピクメディア という会社があります。これはネットでクーポンを売って、店舗のマーケティングをサポートする事業、いわゆるフラッシュマーケティングと呼ばれる領域の会社です。この業界の競争は、今までの日本の中でも有数の激しさではないかと思います」
そもそも、日本のフラッシュマーケティング業界には、昨年3月時点でピクメディアしかいなかった。しかし、今はもう日本国内だけで150社もライバルがいる。「あとは、Twitterなどのソーシャルメディア上でのやりとりや関係をマネジメントするツールである『Kizna 』。ツイッターマーケティングで一躍有名になった「豚組」の中村仁さん(@hitoshi )が新たに起こした会社です。もしかしたら日本発でグローバルに展開して大化けするかもしれないと思いますね」
(文 両角@ryokado)
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