前回の磯崎氏のインタビューはこちら です。
――磯崎哲也とは?
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業(1984年)。長銀総合研究所で、経営戦略・新規事業・システムなどの経営コンサルタント、インターネット産業のアナリストとして勤務。その後、1998年カブドットコム証券の社外取締役、ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師などを歴任。現在、磯崎哲也事務所代表。公認会計士、システム監査技術者、公認金融監査人。。Twitterアカウントは@isologue。著書『起業のファイナンス』。ブログはisologue。
氏は1998年10月にカブドットコム証券の立ち上げに参画した。
立ち上げ時の主要メンバーは全てカブドットコム証券株式会社現社長の齋藤正勝(@masakatsu_saito)氏が声をかけて集めたそうだ。
「今ほどネット上のサービスも発達していなかった時代でした。齋藤さんは仕事で一緒に働いていた人たちなどを誘ってプロジェクトに呼び込んでいました。彼はイケてる人たちを集める能力が非常に高かったです。メンバー集めには、そうした『イケてるソーシャルグラフ』を作る力が非常に重要だと思います」
そもそも、ソーシャルグラフとは一般的に“人間関係図”のこと。
類は友を呼ぶ、という法則で言われるように
“イケてる人はイケてる人のもとに集う”
ネットベンチャーブーム「ビットバレー」
当時は実際に会ってから仲間に誘うのが主流だった。つまり、お金と時間が相応になければならない。だが、その頃から、起業家同士の横のつながりを生む集まりが徐々に増えていったのだとか。
「10年前には、ビットバレーという動きがありました」
ビットバレーとは、ベンチャー企業が多かった渋谷を、アメリカのSilicon Valleyにかけたもの。すなわち、渋=Bitterと谷=Valleyに由来する名称だ。
そのベンチャー熱が高まって行われていたのが「ビットスタイル」という交流会である。
「そのムーブメントが広がり、『ビットスタイル』最後のイベントでは起業家や学生など2000人以上が六本木のディスコ・ヴェルファーレに詰め掛けました」
この最後のイベントには孫正義氏(ソフトバンク)も参加していたそうだ。また、過去のイベントには堀江貴文氏(当時オン・ザ・エッジ)、西川潔氏 (ネットエイジ) 、松本大氏(マネックス証券)、南場智子氏(DeNA)なども参加している。99年にベンチャー向け新市場「マザーズ」が開設された事も背景にあるのだろう。日本銀行の故速水優総裁や東京都知事の石原慎太郎氏も視察に来ていたとのこと。いかに注目されていたかが窺える。
「孫さんは『この会のためにスイスから飛行機をチャーターして飛んできました!』とおっしゃっていました。この一言で会場は大盛り上がり」
しかし、残念ながらこの交流会はこの日をもって行われなくなったそうだ。加熱し過ぎ、当初の目的であるベンチャー企業同士の交流や勉強会等が行いにくくなり、主催者側が以降休止としたためだが、「ビットスタイル」がネットバブルの代名詞のようになってしまったことも背景にあったようだ。
今の仲間集めはこうなっている!
多くの著名人が参加していた「ビットスタイル」。
――氏の体験を聞いた。
「そこでどのようなコミュニケーションが行われたかというと、せいぜい周りの人数人と名刺交換をするぐらい。それも、本当に自分の事業と関係するような人かどうかは全くわからない」
これだけ大規模な交流会に飛び込んでいっても、必ずしもイケてる人に出会えるわけではないのだ。
「当時と今の最大の違いは、ブログやソーシャル・ネットワーク(SNS)などのコミュニケーションのツールが発達したことです。
SNSのおかげで、イケてる起業家や起業家予備軍に出会える可能性は昔より格段に高まっている」
SNSの可能性とは
SNSの登場で仲間集めは大きく変わりつつあるようだ。 氏はSNSの可能性を期待している。
「全世界の人と気軽にコミュニケーションができるツールが整備されてきている。これはすごい事だと思います。 昔は一人の人を見極めるのに時間とコストがかかった。しかし、今ではイケてる奴はTwitterやブログでのコミュニケーションでだいたい想像が付く」
以前ならば、企業の人事は履歴書を見て面接を繰り返し、見極めていた。だが、今はTwitterやブログを見ればその人の人物像が浮かび上がってくるのだ。
「例えば、新しいビジネスモデルをツイートしている人がいるとします。彼のブログなどを見れば彼がどんな人かだいたいわかる。この人イケてるなと思えば、実際に会ってみる。また、実際に会わなくてもTwitter上でそれとなく誘ってみると、本当にその人がベンチャー企業に転職して来てくれちゃったりすることもあります」
実際にTwitterでの“つぶやき”がきっかけで一緒に働き始める方々を氏は目撃してきたのだそうだ。
「今後もそういったコミュニケーションを支える面白いツールはどんどん出てくると思います。そのようなツールを積極的に利用していけば仲間集めはしやすくなると思いますね」
磯崎氏のこれから
日本の起業はまだ本当の競争に入っていない状況だという。
「米国と比べると、日本の起業は質も量も圧倒的に劣ります。競争もゆるいので、日本のベンチャーを取り巻く環境は『冷たい』というより『生ぬるい』という感じ」
――氏に今後の目標や理想を聞いてみた。
「大学生や高校生が『ああいうのをやってみたい』と思えるようなイケてるベンチャーがあと10から20社ほど日本で生まれるお手伝いをしたいですね。たくさんの成功例が出てくると、日本はもっと活気づいてくると思います」
日本は徐々に“起業に冷たい国”ではなくなってきていると氏は主張する。
「日本に起業が少ないのは知識が少ないからだと思います。つまり、『どうすれば上手くいくか』や『資金調達するにはどうするのが一番いいのか』など、起業に関する知識やイメージが足りないために、自分が起業するなんて考えもしない人が多くいる。私が『起業のファイナンス 』を書いた趣旨にも当たるのですが、そういった起業に関する知識を広げることに少しでも貢献できたらと思いますね」
【磯崎氏からメッセージ】
「起業の知識は起業以外にも多いに役に立つのではないかと思います。他人の会社のことは、まさに他人ごとだから興味が湧かなくても、『もし自分が会社を設立して資金を集め、サービスを提供して……』と色々考えてみると、ものの見方も違って来るはずです。
世の中の動きや法律、税金がどうなっているのかなど、色々な側面も見えてくると思いますよ。自分に何が足りないのかも分かる。非常に勉強になると思います。結果としてサラリーマンになるにしても、『起業』を考える事は損にはならないと思いますよ。よかったら、『起業のファイナンス』も買っていただけると、お役に立つかも知れません(笑)」
(文 両角@ryokado)
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